体験場所:宮崎県日向市
私がまだ幼い頃の話です。
当時、両親が離婚をし、小学生になったばかりだった私は母親と共に、祖父母が住む宮崎県日向市の家で一緒に暮らしていました。
一緒に住むと言っても、そこは平屋の家が二つ並んでいて、母屋と離れがある様な造りになっており、母屋で祖父母と一緒に食事を摂って、お風呂に入り、寝る時は母と私は離れに移動するといった二世帯住宅のような暮らしをしていました。
母屋と離れは距離も近く、建物同士が2、3m離れた程度で、その両棟の行き来は簡単に出来ますが、外部からの侵入は難しいような構造になっています。
離れの家は、開き戸の玄関を入った先に廊下が続いていて、廊下の左側が普段私たちが使う居間兼寝室となっていて、右側がトイレになっていました。
トイレは今のような洋式のウォシュレットなどではなく、当時はまだ時々見かけることもあった和式のぼっとんトイレで、まだ幼かった私には、どことなく不気味に感じるものでした。
それだけ家自体も古い造りだったと思います。
ある日のことです。
その日、いつものように母屋でお風呂に入ったあと、私と母は離れに戻り、居間のコタツに入ってテレビを見ていました。
時間は夜の8時半頃だったと思います。
玄関の方から、『キーーッ』と、ゆっくりドアが開く音がしたんです。
居間が玄関から近いこともあって、玄関のドアを開け閉めする音は普段から聞こえ、古い木製のドアは開閉の度に『キーーッ』と耳障りな音を立てていました。
(おばあちゃんかおじいちゃんが来たのかな?)
その時、私はそう思っていたんです。
玄関ドアの開く音がした後に、パタパタと、こちらに向かってゆっくりと廊下を歩く音がします。
(やっぱりおばあちゃんかな。)
そう思ってテレビを見ていると、その足音は、磨りガラスがはめ込まれた居間のドアの前で止まりました。
そのまま足音は止み、しばらくテレビの音だけが聞こえていました。
(どうしたんだろう?なんで入ってこないのかな?)
私はそう思いながらもテレビを見続けていたのですが、やっぱり一向に足音の主が部屋に入ってくる気配がありません。
気になって、私はテレビから目を離し、ドアの方を振り向いたんです。
すると、磨りガラス越しに見えるはずの人影がそこにはありませんでした。
その瞬間、私は母と目が合いました。
お互い同じことを思っているようで、母がこう言うんです。
「今、玄関のドアが開いた音したよね?廊下の足音も、聞こえたよね?でも…誰も入って来ないね…」
母にも同じように、玄関が開く音と廊下を歩く足音が聞こえていたんです。
「おばあちゃんが洗濯物か何かを届けに来てくれたと思ったんだけど…」
母もそう言って、不思議そうにドアの摺りガラスを見つめています。
間違いなく足音は、廊下を伝って居間のドアの前で止まったはず。
それなのに、摺りガラス越しに見えるはずの人影はそこにはなく、暫くの間、私も母もドアを見つめたまま呆然としていました。
私ひとりが聞いた音ならば、空耳だったのかなと勘違いで終わることも出来るけれど、母も同じ音を聞いていたと言うので、私たち2人はだんだん気持ち悪くなってきました。
どうしても気になって、母は意を決してドアを開け、2人で恐る恐る外の廊下を見回したのですが、そこには誰の気配もありませんでした。
念のために、母屋の方に確認しに行きましたが、祖父母も既に布団に入って寝る寸前のところだったので、さっきの出来事を話しても、不思議そうな顔でポカンとしているだけでした。
一体あの現象はなんだったのでしょうか?
「あの家は霊道にでもなっていたのかな?」
と、今となっては母と二人で笑って話すのですが、誰か入ってきたはずなのに誰もいない、あの磨りガラス越しに見えた廊下を思い出すと、やっぱり今でもゾッとします。
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