体験場所:東京都板橋区の自宅
以前、東京で住んでいた家で経験した話です。
大きな土地を二分割して戸建てが二軒建ち、手前に住んでいたのが我が家、隣には他所様の家族が住んでいました。
二軒とも南側に大きな駐車場があり、どちらの家もその駐車場に面した一階部分の部屋が夫婦の寝室になっていました。
あれはまだ初夏の頃。
涼しい風が入ってくるので窓を開けて寝ていました。
お隣さんもそうだったのでしょう。
朝早く、開いた窓から聞こえてくるお隣さんの話し声で私は目を覚ましました。
まだ外は完全には明るくなかったので、初夏とは言えまだ6時前だろうと思いました。
(こんな時間に起きてるんだ、早いなぁ)
って思いながらも、もう少し、目覚ましがなるまでは眠ろうと寝返りを打って(あれ?)と気が付きました。
てっきりお隣さんの家の中から聞こえる話し声だと思っていたのですが、どうやら駐車場にも誰かいて、その誰かとお隣さんが窓越しに話をしているようなのです。
(こんな時間に?)
(駐車場から誰がお隣さんと話しているの?)
と、不審に思った私は、失礼と思いながらも、その話し声に聞き耳を立ててしまいました。
ぼそぼそと低く小さい声でしたが、話の内容はしっかり聞き取れたのです。
駐車場にいる男性は、どうやらお隣の旦那様のお兄さんのようでした。
「お前は小さい頃からやんちゃで、ケガばっかりしていて。二人で川で溺れそうになった時、釣りをしている人に助けられて、しこたま怒られたこともあったよな。その後お父さんにも怒られてさ。」
なんて昔話をしているのが聞こえるんですが、私からしたら、
(朝早くから窓越しに話すことでもないよなぁ~)
と不思議に思っていたのですが、話はまだまだ続くんです。
「俺が病気になってからは迷惑をかけたな。何度も病院に駆けつけてくれたり、俺の家族を支えてもらったり、本当に申し訳なかったと思う。」
(お兄さん病気だったんだ。退院されたのかな?それにしてもこの時間に弟夫婦を訪ねて来るかな?)
と、まだまだ疑問でいっぱいの私。
「俺はもう行かなきゃいけないから。これからもいろいろ面倒かけてしまうけど、俺の家族のことを頼んでもいいか。本当にいろいろと世話になってすまない。行く前に、お前にそのことだけは伝えたかった。今まで色々ありがとう。」
この言葉を最後に、外は急に静かになりました。
その後もお隣さんはご夫婦でぼそぼそと話しているようでしたが、そのうちケータイの音が鳴り響き、何だか急に慌ただしくなった様子でした。
朝起きてから主人にその話をすると、
「俺は全く気が付かなかったけどね。夢でも見てたんじゃないの?」
と言われました。
確かに、少しの物音でも目が覚める主人が気付かなかったのに、普段地震が起きても寝ているような私が気が付いて、その会話の一部始終を聞いたなんておかしいよね、と、私もそう思いました。
数日後、たまたまゴミ捨て場でバッタリと会ったお隣の奥様と、挨拶がてら、
「何日か前、朝早くどなたか尋ねて来られてないですよね?私、なぜだかそんな夢を見た気がして…。」
って話したら、奥様の顔がみるみる青白く変わっていくのが分かりました。
「何か見ました?声、聞こえたんですか?」
って突然奥様がすごい勢いで聞いてくるので、私がビックリしてしまうぐらいで、
「いえ、ずっとベッドに入っていたので、窓の外は見てないのですけど、男性の声が聞こえて・・・」
と正直に言いました。
すると奥様が神妙な面持ちで仰るには、正にその朝、旦那様のお兄さんが病院で亡くなったのだそうです。
状態が急変して亡くなられるまであっという間だったそうで、病院からご家族に電話があったのは、既に亡くなられてからだったそうです。
そしてお兄さんが訪ねて来られた時刻、つまり私が話し声を聞いた時刻が、お兄さんの病状が急変した頃だったとのことで…
どうやら、ずっと闘病していたお兄さんが死を悟り、その魂というのでしょうか?それが弟さんに別れを告げに来られたのを、偶然私が聞いてしまったようなのでした。
ご自身の最後の瞬間に、弟に、自分の家族のことを「よろしく頼む」とお願いし、感謝の言葉を告げに来られるなんて、とても家族愛に溢れた義理堅い方だったんだなぁと、私は感心するばかりでした。
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