体験場所:茨城県 某市の市役所
これは母から聞いた話です。
母は茨城県某市の市役所で受付として働いています。
ある日のこと、いつものように受付で待機していると、70代くらいのおじいさんが役所にやって来たんだそうです。
おじいさんは役所での用事を終えると、帰り際に母のもとに来て、少し話を聞いて欲しいと声をかけてきたのだそうです。
母はいきなり声を掛けてきたおじいさんを不審に思いつつも、「…少しなら」と、話を聞いてみることにしたそうなんですが…
どうやらおじいさんは、自分が最近体験した不思議な出来事について、どうしても誰かに聞いて欲しかったようなのです。
(ここからはおじいさんの話)
おじいさんの自宅は山の麓にあり、先祖代々の大きな畑を持っているということでした。
普段は農家として作物を育てて生計を立てており、息子や奥さん、それと親せきと一緒に畑を共有して耕しているとの事でした。
ある夏の日の早朝、親せきのAさんが畑を見に行くと、大切に育てた作物が食い荒らされていました。
無事な作物も少なからずあったものの、それはひどい有様だったようです。
「きっと山から降りてきた動物に畑は荒らされてしまったんだ…」
と、原因が分かったところで畑が元に戻るわけではなく、一同ガックリと肩を落としたそうです。
その後も動物に畑を荒らされる日々が続きました。
ある日、遂にAさんが、
「動物用の罠を仕掛けて捕まえてしまおう」
と言い出しました。
おじいさんや息子は少しかわいそうだと思いつつも、(畑を守るためには仕方ない…)と思い直し、そのアイデアを受け入れました。
早速その日のうちに畑に罠を仕掛けました。
翌朝、畑に向かうと、罠に一匹の狐がかかっていました。
「狐の仕業だったのか!!」と、怒気をはらんだ声を出したAさんは、「この野郎!」と鍬を振り回し、罠にかかった狐を殺してしまったのです。
その痛め付け方はあまりに酷く、残虐なその光景は見ていられない程でした。
(何もそこまでしなくても…)
おじいさんはそう思いましたが、激昂するAさんを止めることもできず、ただ見ていることしかできなかったそうです。
その翌朝のことです…
おじいさんが畑仕事に出ると、いつもは一番に来ているはずのAさんが、その日はまだ来ていません。
おかしいなと思い、おじいさんはAさんに電話をかけてみたのですが繋がりません。
心配になったおじいさんは、Aさんの自宅に行ってみることにしたそうなのです。
そして、Aさんの家に到着したおじいさんは驚きました。
家の周りには、おびただしい数の動物の足跡が残っているんです。
驚いたおじいさんは急いで母屋へ向かうと、玄関にAさんが苦しそうに倒れ込んでいました。
Aさんはうなされながら、
「きつねが。きつねが・・・」
と呻き声をあげています。
「これはいかん!」
おじいさんはすぐに救急車を呼び、Aさんは病院に運ばれ早急に治療が施されました。
その結果、Aさんはどうにか九死に一生を得たのだそうです。
人心地ついたおじいさんは、昨日のAさんの行為も鑑みて、
(これは狐の祟りではないか?)
と考えた末、その地域にまつわる歴史を調べ始めました。
するとやっぱり、その昔、その地域では狐を神様として祀る習慣があり、狐を虐めると祟りが起こると噂された頃もあったそうです。
(このままだとAさんだけではなく、自分達の命も危ない)
そう思ったおじいさんは、狐の怨念を鎮めるために、その地域で狐を祀っている神社に毎日のように足を運び、農作物をお供えすることを日課としました。
すると不思議なことに、重体と思われていたAさんも少しずつ体調が回復。
予定よりも大分早く退院することができました。
そればかりか、おじいさん達の畑が動物に食い荒らされることも、その後はめっきり無くなったのだそうです
今でも狐の仕返しを恐れているおじいさん達は、息子やAさんと一緒に、今もその神社に通っているそうです。
(ここまでがおじいさんの話しです)
そんな話をおじいさんから聞いた、と、驚き顔で語る母。
でも正直私は「狐の祟りって…」てな感じで半信半疑。
そもそも見ず知らずの母にそんな話をするおじいさんって、少しボケちゃってんじゃないの?なんて思ってたのですが・・・
「コンッ」
話し終えた母が突然、目を細めてそんな声を出すんです。
流石に冗談だとは思うんですけど、母の目が妙に切れ長に見えて・・・
ちょっと背筋がゾクリとしたんです。
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