体験場所:北海道T市
僕が高校3年生の時に体験した話です。
僕の地元の北海道T市には、小さいですが、動物パーク(仮名)という主に小動物が見られる動物園がありました。
子供の頃からよく利用していたのですが、残念ながら、僕が高校2年生の時に閉園してしまいました。
動物パークが閉園して間もなくのことです。
学校内でこんな噂が流れました。
「動物パークには幽霊が出る」
それはあくまで一時的な噂話だったようで直ぐに沈静化したのですが、そんな噂も忘れかけた高校3年生の夏休み前、学校内でまた動物パークの幽霊話が流行り出したのです。
その内容は、廃墟と化した園内で『人の気配がする・足音が聞こえる・叫び声が聞こえる』といったようなものでした。
その噂はもちろん僕のクラスでも話題となり、その結果、『夏休みに動物パーク跡地で肝試し』というイベントが企画され、気付いた時には自動的にクラスメート全員参加という流れになっていました。
ならば仕方ないと、肝試し当日、僕は親友のAと一緒に勇んで待ち合わせ場所の動物パークに向かったのですが、到着直後、いきなり驚かされました
集まった人数は総勢わずか5名。
企画者のB、そして僕とA、それと他2名。
クラスの雰囲気としては全員参加のような流れに見えたのですが、まさかこんなにも集まらないとは思いもしませんでした。
企画者のBはビデオカメラ持参で張り切っていましたが、あまりの集まりの悪さに落胆している様子でした。
やはり白けてしまったのか、他2名もいつの間にか帰ってしまい、気が付くと結局残ったのはBとAと僕だけになっていました。
「・・・今日は、中止にする?」
あまりの惨状を見かね、Bにそう声を掛けると、
「いや。3人で行って、幽霊をビデオに撮ってやろうぜ」
Bは開き直ってそんなことを言い出す始末。
どことなくBを不憫に感じてしまったのでしょう、僕とAは、Bの提案を断る事が出来ず、結局、僕たちは3人で動物パークの廃墟跡へと入って行きました。
園内はたった数か月間放置されていただけなのに、草が生い茂り、アスファルトはひび割れていて、本当に廃墟感満載って感じに荒れていました。
空っぽになったオリ(飼育小屋)を前に、僕とAがレポートし、それをBがビデオカメラで撮影するというのを繰り返しながら園内を回りました。ですが都合よく幽霊が出てくれるようなこともなく、僕たちはただただ何も居ないオリを撮影するだけの不毛な時間を過ごし続けました。
Bも流石にそんな無駄な時間に飽きてしまったのでしょう。
「お前らさ!やらせでも何でもいいから心霊現象を起こせよ!」
と、僕たちに無理難題を押し付けてきました。
「そんなことできないよ」
僕たちはもちろんそう返答し、更にAが続けました。
「他の人はここに来る事もできなかったんだから、僕らは来られただけで十分優秀だし、別に幽霊を撮影して見せつける必要もないんじゃない?」
そう言うとBは、
「それもそうだな。あいつらビビってこれなかったんだからな」
とご満悦でした。
とりあえず園内もほぼ回り切り「もうそろそろ帰るか?」と誰かが言った時でした。
ガサッガサガサ
園の外にある林の中を、何かが歩く音が聞こえました。
「はは~ん。どうせ〇〇(クラスの友人)だろ!俺たちを脅かそうとしてるのバレバレだから!」
と、Bが林に向かって叫びますが、返事は返ってきません。
それどころか、足音は更に勢い付いてこちらに向かってくるのが分かります。
正体不明な足音の急接近に、流石にBも危険が近付いていると察知したのか、
「お、お、おい・・・に、逃げろー」
上擦った声でそう叫ぶと同時に、僕たちは出口に向かって走り出しました。
ですが、僕たちの全力の走りなど物ともせず、追ってくる足音はどんどん近付く一方です。
とにかく焦って必死に走っていたその時、Bが思いっきり転びました。
流石に置いて行くわけにもいかず、僕とAは立ち止まって、Bを起こしながら辺りの気配を伺うと、足音が止んでいることに気付きました。
一体何に追われていたのかは分かりませんが、僕もAもホッと胸を撫で下ろした瞬間でした。
「ぎゃーーーーー!!」
僕たちに抱き起こされているBが、一方を指差し叫びました。
思わず僕たちもAが指差す方を目で追うと、林の茂みの中に、こちらを見つめるような沢山の光が見えました。
「うわーーーー!!」
そう叫んだ瞬間から、どこをどう逃げてきたのかは分かりません。
必死に走って息も絶え絶えに、僕らが辿り着いた場所は、動物パークと同じ敷地内にある記念塔の前でした。
「ハァーハァー、さっきの・・・なに?」
「知らないよ…ハァーハァー…こっちが聞きたいぐらいだ」
肩で息をしながら、さっき見たものの正体について当てどもなく話していると、
「こら!こんなところで何してんだ!」
背後から大人の男性の怒声が聞こえました。
僕たちは咄嗟に声のする方を振り向くと、そこには警備員のおじさんらしき人が立っていました。
夜遅い時間だったこともあり、僕たちは警察に通報されることを恐れ、咄嗟に「すいません」と謝って走って逃げ帰りました。
次の日、Bが昨日こなかったクラスメイト達をバカにしながら、動物パークで撮影した映像をプロジェクターを使い再生していました。
そこには、足音に怯えて逃げる僕たちの姿や、林の茂みから覗く謎の光など、昨日の全ての出来事が鮮明に記録されていました。
(あんな状況でもBはビデオカメラを回していたのか…)
僕はBの執念を知り、少し見直したような、いや、むしろ呆れたような気持ちでその映像を見ていました。
改めて昨日の出来事を映像で見てみると、気付いた点が幾つかありました。
まずは僕たちを追いかけて来た足音なのですが、映像の音を聞く限り、それは四足歩行の動物の足音に聞こえました。
二足歩行の足音の場合「ざっざっざっざっ」と、左右の足音が均等に、一定のリズムで聞こえるはずです。ですが、映像に捉えられている音は「ざっざざ、ざっざざ、ざっざざ」と、まるで四足歩行動物特有の、前後の足音が混ざりあってリズムを刻んでいるように聞こえました。
だとしたら、茂みから覗く謎の光って、その僕たちを追いかけて来た四足歩行の動物、例えば犬とか猫の目だったのかもしれない、とも思うのですが・・・
ただ、その場合、一つの疑問が残ります。
茂みから覗く光の位置が、少し高すぎるのです。
地面からだいたい150cmくらいの高さでしょうか。それはまるで、犬猫の目の高さと言うよりは、むしろ人間の背丈に近いような…
そんなことを考えている内に、映像は最後の記念塔の前でのシーンになっていました。
すると、そこで僕は自分の目を疑いました。おそらくAもBもそうだったと思います。
と言うのも、映像の中で、記念塔の前で会話していた僕らが唐突に振り返ったかと思うと、その後、誰もいない所に頭を下げ、「すいません」と言って走り去っていったのです。
昨夜僕たちが注意された警備員のおじさんの姿なんて、どこにも映ってないし、その声すらも一切映像には入っていなかったのです。
何度も繰り返しそのシーンを確認しましたが、やっぱり結果は同じでした。
「こいつ…幽霊だったんだ…」
目を見開いたBはそう言って、呆然としていました。
このことは、何度もクラスメイトに説明しましたが、当然と言えば当然かもしれませんが、誰一人信じてはくれませんでした。
後日、僕はこの件のことを両親に話しました。
すると、信じてもらえたかどうかは分かりませんが、父親からこんな話を聞かされたのです。
「あの動物園はな、経営不振で閉園してしまってな。もちろん犬や猫もいたんだけどな、閉園が決まった段階で大半が殺処分されてしまって…。記念塔の方も、閉館が決まった時、長年勤めていた警備員が自殺したって話だぞ。」
父の話が本当なのかどうかは分かりません。
ただ、あの夜僕たちが見た一連の出来事を思い出し、改めて背筋がゾッと凍り付きました。
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