体験場所:愛知県名古屋市 某病院
あれは私が愛知県の某病院で、まだ末端の一医局員だった頃の話です。
その日、徹夜続きで疲れていた私は、早く帰りたかったのですが、どうしても直ぐに記載しなければならないカルテがあり、結局その夜も遅くまで作業に追われていました。
というのも、私が担当していた患者のAさんが突然亡くなってしまい、すぐに死亡報告書を記載しなければいけなかったのです。
ただ、実はAさんの死因は院内感染によるもので、医療ミスとして訴えられてもおかしくないものでした。
そこで私は、出来るだけ病院へのダメージを小さくしようと細心の注意を払いカルテを記載していたのですが、その事に神経を集中しすぎたせいなのか、他に大変な失敗を犯してしまったのです。
それは、私が受け持っている他の患者Bさんのカルテに、Aさんに関する診察内容を記載してしまったのです。
ちなみにBさんはAさんと同じ病棟に入院している患者さんでしたが、数日後には退院を予定している元気な患者さんでした。
あまりに疲れていたせいだと思うのですが、その誤りに気付くことが出来ないまま、翌朝同僚に「診察記事でBさんが死んだことになっている!」と指摘され、初めて私はミスに気付いたのです。
幸い大事に至る前に発覚したため、こっそりと修正して、他のスタッフにはバレることなくその時は事なきを得ました。
しかし、本当に恐ろしい事が起こったのは、その日の夜の事でした。
これまで元気でピンピンしていたBさんが、突然Aさんと同じ症状を発症し容体が激変、そのまま突然死してしまったのです。
必死に処置を施したものの、当時経験があまりに乏しかった私は、どんどん容体が悪化するBさんの身に一体何が起きているのか全く理解できず、ただただ呆然とすることしか出来ませんでした。
同じ職場に勤務している先輩医師も、Bさんの症状を見てこう言っていました。
「これまで医師として勤めてきた経験上、こんな急激な容態の変化は一度も見たことがない」
そんな出来事からしばらく経った頃でした。
他の病院に勤務している大学時代の同期から、もしかしたらBさんの急変と何か関係があるかもしれないとも思える、医療業界で噂される都市伝説的な気味の悪い話を耳にしたのです。
「この世の中には『デスカルテ』というものが存在する」
デスカルテとは、某映画に出てくるノートのように、そのカルテに記載した診察記事が未来で本当に起こるというものらしく、そんなものが日本全国の複数の病院に存在していると言うのです。
それは、誰も気付かないまま医療現場に普通に流通しているらしく、具体的にそれがどこで利用されているかといった情報は、極めて限られた人にしかオープンされていない、ということでした。
つまり、現場で働く末端の医師たちは、知らぬ内に患者の診察内容をデスカルテに記載しているかもしれないと言うのです。
基本的にカルテには診察した事実しか記載しないため、未来を予言するような診察記事が記載されることはまず有り得ません。
それでもデスカルテを悪用すれば、誰にも怪しまれることなく狙った人物を殺害することができるため、要人の暗殺などに悪用されているらしいということでした。
「もしかして…この前のBさんの突然死も…」
非常に嫌な予感がし、それ以降、デスカルテの噂は私の頭から片時も離れることはありませんでした。
それからしばらくの間、迷いに迷った末、私はある決心をしました。
「自分の病院にあるカルテがデスカルテなのかどうか、ハッキリさせよう…」
そう考えた私は、担当する患者さんの中から末期の肺ガンを患い余命宣告まで出ている方のカルテに、
『突然ガン細胞が全て消えて完治した』
という診察記事を、絶対に間違えないように丁寧に記載しました。
すると1ヶ月後、本当にその患者さんは肺ガンから回復し、遂には元気な姿で退院して行ったのです。
「やはり私の病院のカルテはデスカルテなのか…」
その仮説を確信に変えるため、それから私は治る見込みのない患者さんのカルテに、回復したという未来の診察記事を次々に書き込んでいきました。
すると全ての患者さんが全員もれなく元気になり、嬉しそうに退院して行ったのです。
もはや疑う余地もなく、
「やはりこれはデスカルテだ…」
そう確信したその日、私は病院をクビになりました。
風の噂に、病院を管轄する某省庁が、私の医師免許を剥奪するように圧力をかけたと聞きました。
もしかしたら、デスカルテは国家絡みの案件なのかもしれません。
ですが、もはや私にはその真実を知りようもありません。
ただ、世の中にデスカルテは本当に存在する。
私はそう確信しています。
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