体験場所:北海道札幌市 某高等学校
私が通っていた北海道札幌市の高校には、いわゆるマラソン大会というものがありませんでした。
地元の中学から他の高校に通う友人達は、皆マラソン大会が近づくと憂鬱な気分で過ごしており、当時マラソン大会の無い高校に通う私は、よく周りから羨ましがられたものです。
私の高校のすぐ隣には大きな公園があり、外周が4~5kmあります。
学校のグラウンドを使用できない体育会系の部活員が、その公園を走っている姿を今でもよく見かけます。
こんな恵まれた環境があるにも関わらず、私の高校にマラソン大会が無いことを、当時の私も不思議に思っていました。
しかし、実はその高校でも、かつてはマラソン大会が行われていたという話を噂を耳にしたんです。
それならなぜ、マラソン大会が行われなくなったのか?
それについて、上級生から代々実しやかに語り継がれている都市伝説的な話があるんです。
当時、A君という体の弱い男子生徒がいました。
体が弱いこともあり、やはりA君は運動が苦手だったそうです。
ある年のことです。
その年もマラソン大会の季節がやってきました。
憂鬱そうにしている生徒もいれば、逆に張り切っている生徒もおり、A君はその後者でした。
なぜなら、体育の授業でも完走を成し遂げたことがなかったA君でしたが、そのマラソン大会で完走することを目標に一生懸命練習に励んできたからです。
そして、いよいよ迎えたマラソン大会当日。
コースは学校の隣の公園です。
学年の男子生徒が一斉にスタートしましたが、やはりA君は後方集団で、ゴールが近づく頃には大差で最下位を走っていたそうです。
それでも果敢に完走を目指すA君の姿に、既にゴールしていた男子生徒や女子生徒、更に教職員も駆け付け、手を打ちながらA君のゴールを見守ります。
「がんばれ!A!もう少しでゴールだぞ!」
「A君、あと少しだよ!」
そんな声援に応えようと、息も絶え絶えになりながらA君は最後の力を振り絞ります。
そして倒れ込みながら迎えたゴール。
A君は完走を成し遂げる事が出来ました。
全員が一斉に拍手喝采。
A君の頑張りを誰もが称えました。
ところが、ゴールで倒れ込んだA君が全く起き上がってきません。それどころか、ピクリとも動かないんです。
直ぐに救急車で病院に運ばれたA君でしたが、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
学校中が悲しみに包まれました。
もちろんA君のクラスもそうでした。
ですが一方で、苦手だったマラソンを命がけで完走したA君の勇士に、皆が勇気をもらったことも事実です。
いつしか誰からともなく、マラソン大会でゴールした瞬間のA君の写真を、教室に飾ろうという声が上がりま始めました。もちろん担任の先生も大賛成だったと言います。
しかし、その写真が飾られることはありませんでした。
学校行事の際には、卒業アルバムに載せるための写真を、プロの専属カメラマンが常に撮影しており、A君のゴールの瞬間ももちろんそのカメラマンが撮影していました。
しかし、A君のゴールの瞬間の写真を現像するように依頼すると、カメラマンは申し訳なさそうな顔でその写真を渡してきたと言います。
写真には、A君のゴールの瞬間が写っていました。
必死な姿でゴールテープを切るA君の姿と、それを応援する生徒達。
ですが…
よく写真を撮る際にタイミング悪く目を瞑ってしまう事があります。その写真もまさにそんな瞬間を捉えていたんです。
応援する全生徒が一斉に目を瞑った瞬間を…
しかも、A君のゴールを拍手で迎えている状況で、偶然なのか何なのか、全生徒の左右の手が皆合わさった瞬間がカメラに捉えられていたんです。
それは丁度、倒れ込みながらゴールするA君を、皆で合掌して見送るような構図の写真だったと言います。
実際にA君はそのまま帰らぬ人となってしまいました。
私が在学中、その高校に長く勤めている先生たちに、この話について聞いたことがあります。
ですが、どの先生も皆、口をつぐんでしまうばかりでした。
さらにその後、その話には尾ひれが付き、夕方薄暗くなった頃にその公園を走ると、今もゴールを目指して走り続けるA君の亡霊が現れる、というありがちな噂話も立てられたそうです。
かつて本当にそんな事故があったのか?
それが切欠となり以降のマラソン大会が中止になったのか?
正直、話の真偽は分かりません。
ですが、今でもその高校でマラソン大会が行われていないことは事実です。
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