体験場所:新潟県 某小学校
私の叔父は幼い頃から現在の40歳に至るまで、数え切れない程の恐怖体験をしてきたと言います。
事故車両から覗く血まみれの男や、ラジオから聞こえてきた地を這うような呻き声。
叔父から聞かされる恐怖とグロテスクが混じる話は、全てリアルに想像できてしまい、当時小学生だった私のビビリ症は叔父のせいだといっても過言ではありませんでした。
これは、そんな叔父から聞いたお話の一つです。
新潟県の某小学校に通っていた叔父が、小学5年生の頃。
スポーツ少年だった叔父は、放課後になると毎日のように友達数人と体育館でバスケットボールをして遊んでいました。
30年近く昔の子供時代、今では考えられないかもしれませんが、外が真っ暗になるまで下校しない日も少なくなかったそうです。
その日も同じように友人達と体育館に集まり、いつも通りバスケットボールをして遊んでいました。
まだまだ外は明るく、時間に余裕があることが嬉しかったと、叔父は懐かしそうに語っていました。
すると遊んでいる最中、友達の中の1人が「トイレ行ってくる!待っててー」と体育館を出て行くのを「いってらっしゃーい」と他の友人と見送りました。
実はこの時、叔父もトイレを我慢していたのですが、それが『大』の方だったらしく、恥ずかしさもあって一緒に行こうなどとは言い出せなかったそうです。
しばらくすると体育館の扉が開き、友達がトイレから戻ったと分かると同時に「俺もトイレ!」と言って、叔父は体育館を飛び出しました。
校舎と体育館をつなぐ渡り廊下を小走りで渡り、相談室として使われている教室の隣にあるトイレを目掛け、血眼になって急いだそうです。
トイレに着き、上靴をスリッパに履き替えることも出来ないくらいに緊急を要していた叔父は、和式便所の個室に飛び込み何とか大事には至らずに済みました。
安堵感で目をつむって用を足していた叔父。
一息ついて目を開けた時の光景に心臓が跳ね上がるほど驚きました。
視界が真っ暗なのです。
体は固まり、思考は停止、言葉も出ない。
完全にパニック状態です。
(どうしよう…)、ようやくそんな風に思えるようになった次の瞬間、『パチンッ』とスイッチのような音が聞こえ、電気がチカチカッと点滅したあと、辺りが明るくなりました。
トイレの外から数人の笑い声と廊下を駆けていく足音が聞こえます。
ようやく友達からいたずらされたのだと思い至った叔父は、バクバク鳴る心臓の音を感じながらも、心底ホッとしたのだそうです。
この時のことを叔父は「出るもんも引っ込んだ」と言って話していました。
(あいつらになんて言ってやろう。でも、あんまり怒るとビビリ屋だとからかわれてしまうしなあ)
と、叔父は当たり障りない丁度いい文句を考えながら、便器から立ち上がり、ふと明かりを確かめるように上を見上げると、視界に不可解なものが飛び込んできました。
ちょうど背にしている個室のドアのその上。
叔父にはそれが人の頭に見えたそうです。
鼻から下をドアで隠すように、叔父をじっと見下ろす男か女かも分からない人間。
あまりの恐怖に訳が分からなくなった叔父は、ズボンもパンツも上げずにドアにタックル、転がるようにトイレから脱出。
下ろしたままの服に足がもつれながらも、一心不乱に体育館へ駆け戻りました。
すると、体育館にいた友人たちは、突然ズボンもパンツもずり落ちたままの叔父が現れて大爆笑。
叔父も安堵のためか、電気を消されたことも忘れて半べそで大笑いしたそうです。
何が何だか分からず悲しいやら怖いやら、おかしいやら色んな感情が合わさった泣き笑いでした。
後から聞いた事なのだそうですが、あの時、叔父がトイレに行って戻って来るまでの間、友達は誰1人として体育館から出ていないそうです。
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