体験場所:東京都千代田区 靖国神社
これは今から20年も前に、私の知り合いの叔母さんに当たるAさんという人が、東京都千代田区の靖国神社で体験したお話です。
新入社員として働き始めたばかりだったAさんは、この日、歓迎会も含め、会社の方たちと靖国神社でお花見を楽しんでいました。
その頃も靖国神社の桜はとても綺麗だったそうです。
花見は盛り上がり、始まってすぐに飲み物はなくなってしまい、Aさんが一人で買い出しに行くことになりました。
Aさんは綺麗な桜をゆっくりと眺めながら、歩いて買出しに向かったそうです。
その道すがら、Aさんはふと気が付いたことがあるそうなのです。
さっきから、後ろの方から『ダッダッダッダッ』と、何やら行進するような足音が聞こえてくるのです。
他にも花見客がいるのですから足音自体は別段不思議ではありません。
でも、なんとなくおかしいのです。
後ろから聞こえてくる足音は、Aさんの歩きと同調するように、なぜかタイミングを合わせているようなのです。
もしかしたら変質者かもしれないと思ったAさんは気味悪くなり、次の瞬間、振り向かくこともせずに思いっきり走り出しました。
すると後ろの足音も速くなり、明らかに走っているのが分かります。
Aさんは無我夢中で走るも後ろの足音も速くなるばかり。
走るのを止め再び歩き始めると、足音のスピードも遅くなります。
何が目的なのか分かりませんが、後ろの誰かに脅威を感じたAさんは、とうとう意を決して後ろを振り向きました。
…するとそこには、膝から下がない日本兵がいました。
顔や皮膚にはやけどの痕もあったそうです。
何も言葉が出ずにいたAさんに日本兵はこう言いました。
「お水はどこにありますか。お水はどこにありますか。お水をください。」
と、何度も繰り返し言ってくるのです。
もちろん生きた人間ではないことは明らかなのですが、日本兵ははっきりとそう口にしたのです。
そこから百メートル程のところに水飲み場があったことをAさんは知っていました。
Aさんは恐怖心を抑えながらも日本兵に、
「あちらに水が飲めるところがあります」
と、指で方向を指しながら言いました。
すると日本兵はおもむろに水飲み場の方を振り向くと、そのまま上半身だけで向かって行ったそうです。
しばらく身動きができなかったAさんですが、正気を取り戻した頃、なぜか足が勝手に動くような感覚でどこかに向かったそうです。
Aさんが向かった先、そこは靖国神社の正面を出たところにある『戦没者慰霊碑』でした。
もちろんAさんはそこに慰霊碑があったことを知りません。ですが、それを目の当たりにしたAさんは、不思議なことに涙が出てきたそうなのです。
まさにAさんが見た先ほどの日本兵は、かつて、国の為にと必死に戦い命を落とした日本兵だったのかもしれません。
食べ物はおろか、水を飲むこともままならず亡くなってしまったのかもしれません。
あの日本兵が、今でもあそこで水を求め彷徨っているのかは分かりません。
ですが、今でもその時の体験を忘れないAさんは、毎年靖国神社に出向いては手を合わせ続けているそうなのです。
それにしても一つ疑問なことが。
その日本兵の姿を見た時、膝から下はなかったということなのですが…
だとしたら、Aさんの後ろから聞こえていた足音って、一体なんの音だったのでしょうか…。
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